連載全3回のうち第3回目
作成:讃匠 麺研究センター
⑤ 麺の研究
その頃の香川県はさぬきうどんの本場で、手打ち職人もたくさんいました。
さぬきうどんの古くからの製法は「朝練り、即打ち」ですが、
その通り作っても美味しくない事実を発見したのです。
“なぜだろうか?”と考えましたが、古の時代と現在の最も大きな差は、小麦粉の差だと分かったのです。
香川県は、雨が少ないので、小麦の栽培に適し、収穫した小麦は河川に沿って作られた水車小屋で、
水車製粉が行われていたのです。
昔の水車製粉なので、小麦の粒全体を潰して粉にしているので、
外の渋皮まで挽きこんでいる全粒粉なのです。
従って、蕎麦粉の様に酵素活性が高く、寝かせる必要がなかったのです。
ところが、現在、われわれが使用している小麦粉は、小麦粒の中心しか使っていない精製粉で、
灰分の含有量が0.34%付近の非常に精製度の高い小麦粉なのです。
私は、最初はこのような事実は分からなかったのですが、
小麦粉の本場オーストラリアの小麦局の研究員とか、韓国の大手パンメーカーの研究員たちと
麺の研究を行なっていくうちにいつしかこの事実を掴んだのです。
今でも北米、欧州の国々のパンとか麺は、日本ほど白い小麦粉では作っていないのです。
世界で、日本のパン製品、麺製品が最も白く、灰分に当たるミネラル分が最も少ないのです。
従って、日本の現在の小麦粉で製麺すると、寝かさないと美味しくないのです。
寝かすことによって、少ない酵素の働きが活性化され、美味しくなるのです。
この事実を見つけたので、私は業界で最初に適温で麺生地を寝かすことが出来る熟成庫を開発し販売したのです。
更に麺の研究では手作業と機械の違いを研究し、最も麺生地にストレスを与えない、シルキーミキサーの開発に繋がったのです。
先ほどのデザイン・フィロゾフィーでご紹介した通り、当社の製麺機の設計思想は、美味しさを最優先の設計になっているのです。これは小型製麺機だけでなく、大型製麺ラインも全く同じ思想が貫かれているのです。
⑥ 当社がトップになれた理由
製麺機ビジネスがある程度軌道に乗ってきた約20年前のある日、
「製麺機を作っているだけではいけない」と思ったのです。
同じように、製麺機を販売しても非常に成功するお客さまとそうでないお客さまが現れ始めたのです。
その頃、日本のビジネス界で頭角を現し始めていた「セブンイレブン」の使命が
「生業支援会社」であることを知人が教えてくれたのです。
セブンイレブンは、酒屋とか米屋の様な、廃れていく生業ビジネスを支援するために、
セブンイレブンのコンビニ事業を始め、本来であれば、消えていく生業ビジネスを復活させたのです。
このことを教えて貰い、それでは製麺機を作っている当社の使命を考えた場合、
当社は麺ビジネスの繁盛支援会社でないといけないと思い、使命を麺ビジネス繁盛支援会社としたのです。
そして、麺ビジネス繁盛支援会社であれば、その当時、
まだ出来ていなかった年中無休365日メンテナンスを始めようと社員に訴えたのです。
その当時の社員数は30名あまりだったので、社員の負荷が大きくなるので、
社員全員が反対したのです。
365日のメンテナンスを始める理由は、製麺機の故障が多いのは日曜日、
祭日の様な忙しい日に起こりやすいのです。
しかし、365日のメンテナンスは社内では大反対が起き、退社する社員も数名出ました。
最初は、反対していた社員も説得を続けるうちに、何とか納得して、
365日メンテナンスを始めることが出来たのです。
そして、実際365日メンテナンスを行ってみるとお客様の信頼が厚くなり、
反対した社員も自分たちの行いを誇りに思うようになっていきました。
そして、それまでの当社は最後発でこの業界に参入し、ずっと業界2位だったのです。
ところが、365日メンテナンスを始めると、いつしか業界トップになったのです。
365日メンテナンスの後、うどん学校は24年前から始めました。
その頃は、さぬきうどんブームが広がり、製麺機の需要も広がっていきました。
その4年後にラーメンと蕎麦を始め、経営に関する講義も始めました。
現在は素人が手を出しても成功せず、プロでも苦労をする時代になりました。
学ばなければならないことも複雑になり、そのようなことも学校で教えるようになりました。
そして、製麺機ビジネスは日本だけにとどまらず、海外展開をしていきました。
③ ⑦ 未来へ
私は49年前にこのビジネスを始めて、例えようのないくらいにたくさんの失敗を繰り返して来て、
更に未来に向けて、さまざまな挑戦を繰り返しています。
当社の今後の戦略がストレートに麺ビジネスを志す皆さまのお役に立てるとは思いませんが、
私のたくさんの失敗の歴史から、これからの時代の麺ビジネスを志す方にお伝えしたいことは以下の通りです。
現在の日本の人口構成は、少子高齢化が進み、過去の人口数の時代に戻って行こうとしています。
現在の日本の人口は1億2450万人で、ピークの1億2810万人から減少の一途を辿っています。
しかし、過去の日本を振り返ってみると、人口が1億人を超えたのは1968年頃で、
私が生まれた1948年の人口は何と8千万人だったのです。
その頃の日本は悲観的だったかというと、決してそうではなく、
戦後の復興期で多くの人たちが貧しいながらも幸せに暮らしていたのです。
私の両親が結婚したのはその頃だったのです。
そして、現在の日本を高いところから眺めてみて感じるのは、
ビジネスの過当競争の厳しい分野とそうでない分野が入り混じり、
これからの時代の可能性の高い分野のビジネスが見えています。
例えば、さぬきうどんの本場の香川県も一時は900軒近くあったうどん店も、
現在では600店程度に落ち着いています。
しかし、これでも世界のレストランビジネスの競争レベルから言えば、多すぎるのです。
もし、この数が半分の300店程度であれば、香川県のうどん店の多くはもっと裕福になれるのです。
これは香川県だけの問題だけではなく、日本全体で言えることなのです。
しかし、日本にはこれと反対に足りていない、或いは、これから足りなくなるのは農業人口です。
世界の先進国のほとんどは農業国であり、これからのSDGsの時代になれば、
ますます農業の重要度は増します。
麺ビジネスを志す若い人たちの半分くらいが、農業ビジネス、或いは漁業ビジネスに参入すれば、
これからの日本はもっと豊かな未来が開けてくるように思います。
そして、麺ビジネスはこれからもっともっと高度化してくるので、1人で始めるのではなく、
それぞれの専門分野のプロ中のプロたちが集まって始めるビジネスになると信じています。
これは、海外のお客さまの成功より、麺ビジネスの未来が見えてくるのです。